東京の河川(5)荒川水系・利根川水系への備え

氾濫への備えとは?

上の図を見てください。以前にも述べたように荒川の下流域(江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区)には「海抜ゼロメートル地帯」が広がっています。海抜ゼロメートル地帯とは、標高が満潮時の平均海水面より低い地帯を指します。この地帯で河川が氾濫した場合、標高の方が海面より低いのですから、流入した水を排出することは困難です。そしてこの地域は荒川水系のほか、江戸川や中川等の利根川水系の川も多く流れています。従ってこの地域においては荒川水系や利根川水系に属する河川が氾濫しないように対策を打つことが必要となります。

2019年(令和1年)の台風19号では、荒川は計画降雨量(河川整備で用いられる流域の基準水量)548 mm/3日に対して417.6 mm(76%)、利根川では計画降雨量336 mm/3日に対して298.7 mm(89%)でしたが、多摩川では計画降雨量457 mm/2日に対して473.0 mm(104%)、相模川では計画降雨量460 mm/2日に対して467.8 mm(102%)と超過していました。このように台風19号で荒川・利根川は多摩川や相模川に比べて良好な状態にあったと思われます。

それにもかかわらず荒川については後述する荒川第一調節池、渡良瀬遊水池、首都圏外郭放水路などフル稼働状況となり首都圏を災害から守りました。さらに実際にこの台風では荒川と隅田川を分岐する北区岩淵にある「岩淵水門」を遮断し隅田川への水の流入を止めています。これ以上の隅田川への流入は隅田川の氾濫につながったためですが、これ以上増水した場合、荒川の負担が増し荒川が氾濫する恐れが高くなっていました。多摩川や相模川でも計画降雨量を超える雨量が生じる以上、荒川や利根川でも計画雨量を超えることは想定できるでしょう。2019年の台風19号からも荒川や利根川の計画降雨量を超える雨量は東京を含む関東平野に重大な被害を及ぼす可能性を感じます。これを防止するために荒川などの大きな河川で氾濫への対応はダム調節池水門高規格堤防(スーパーダム)などの施設をが特に重要です。これらを連携させて河川が氾濫しないように努める必要があります。

ダム

荒川水系のダムには、「二瀬」「滝沢」「浦山」「大洞」「玉淀」「円良田湖」「有間」「宮沢溜池」等のダムがあります。ダムの役割には「洪水調整」「発電」「灌漑用水の補給」「水道用水の確保」等の目的があります。二瀬ダムは昭和36年に完成し700m3/secの洪水調節、浦山ダムは平成10年に完成し890m3/secの洪水調節、滝沢ダムは平成20年に完成し890m3/secの洪水調節を行っています。

調節池

彩湖の碑

彩湖

彩湖と治水

 


荒川の調節池として挙げられるのは、「荒川第一調節池」です。JR武蔵浦和駅と東武東上線朝霞駅の間あたりにあり、一般的には「彩湖」といえば通りが良いでしょう。彩湖は荒川第一調節池の一部にあたる貯水池です。

「荒川第一調節池」は1973年に旧建設省が第一~第五の調節池委の計画を行い唯一完成している調節池で2003年に完成しました。その貯留量は3,900万㎥と極めて大きいものとなっています。因みに神田川・環状七号線地下調節池が54万㎥ですから、約72倍も貯水ができることになります。しかし令和1年台風19号では3,500万㎥もの貯留をしています。9割近くまで消化していることになります。

現在、荒川第一調節池の上流では、平成30年度から令和12年度(13年間)でさいたま市、川越市、上尾市にかけて「荒川第二調節池(約3,800万㎥)」「荒川第三調節池(約1,300万㎥)」を建築中です。これらが完成すると第一調節池を含めて9,000万㎥の貯留量を確保することができます。

一方、利根川水系に目を移すと、渡良瀬川に日本最大の調節池機能を持つ「渡良瀬遊水池」があります。栃木県、群馬県、埼玉県、茨城県に跨り第一調節池から第三調節池まであります。調節池としての貯留量は約1億7,000万㎥です。しかし令和1年台風19号ではこの遊水池も約1億6,000万㎥の貯留を行い、94%消化しています。この遊水池は東京から離れた場所にありますが、これがなければ東京への影響も大きいことは想像できます。

更に地下には世界最大級の地下放水路、「首都圏外郭放水路」があります。埼玉県春日部市の上金崎地から小渕にかけての延長約6.3kmまで国道16号線(東京を中心に周辺を走る環状道路)の地下50mに位置します。この放水路は公称「彩龍の川」と呼ばれますが、俗称「地下神殿」と言われればご存じの方も多いのではないでしょうか。2006年に完成しその貯留量は約67万㎥にもなります。この放水路の役割は中川、綾瀬川流域が水のたまりやすい地形となっているため、中川、倉松川、大落古利根川、18号水路、幸松川といった中小河川が洪水となった時に江戸川へ排水することです。しかしこの放水路も令和1年台風19号ではほぼフル稼働していました。

水門

「水門」は河川の合流点につくられます。通常はゲートを開けて支流の水を本流に流していますが、本流の水位が上昇した際にゲートを閉じて支流に本流の水が逆流しないようにする役割を担っています。水門は荒川沿いに上記地図に記載した水門がありますが、隅田川沿いにも多くの水門があります。(多すぎて地図に記載できませんでした。)

前回述べた「岩淵水門」は荒川放水路(現在の荒川)が作られた際に隅田川への過剰な水の流入を防ぐための水門です。冒頭で述べたように令和1年台風19号ではこの水門は閉じられ、隅田川の氾濫を防ぐのに役立ちました。

高規格堤防(スーパー堤防)

高規格堤防(スーパー堤防)」とは、堤防の高さに対して幅を長くして緩やかな傾斜にした堤防です。高規格堤防は従来の堤防に比べ、次のようなメリットがあります。

  1. 越水しても堤防上を緩やかに水を流すことで、堤防の決壊を防ぐ。
  2. 水が浸透しても堤防幅を広くとることで、堤防斜面・内部の侵食による決壊を防ぐ。
  3. 必要に応じ地盤改良を行い、強い地盤とすることで、地震発生時にも液状化による堤防の大規模な損傷を回避する。

高規格堤防は1987年に当時の建設省が始めた事業です。利根川、江戸川、荒川、多摩川、淀川、大和川の5水系6河川を対象に当初は約873kmを整備の対象としていました。高規格堤防のメリットは大変大きく、特に海抜ゼロメートル地帯では効果も大きいのですが、既に市街地化されている街を壊してから堤防を作りその上に街を再建するので、金銭的負担も膨大で時間もかかるため2010年に民主党の行った事業仕分けにより高規格堤防は廃止されてしまいました。しかしその後、2011年の東日本大震災を経験し人命にかかわるとして120kmのみが継続の方針となりました。

荒川と江戸川では上記の地図の通り、ゼロメートル地帯を囲む一帯が整備対象とされていますが、2017年3月時点で高規格堤防の整備状況(120kmのうち)は、14.3km(12%)となっています。荒川59.6kmのうち6.2km(12%)、江戸川22.0kmのうち1.9km(8.4%)となっています。このような現時点での経過から高規格堤防は効果が多くても時間がかかりすぎるという点において今後の温暖化に基づく雨量の増加傾向に対応できるのかやや疑問を感じます。リンク:高規格ダムの現状

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