東京の郊外の土地の価格を調べてみた。

 

今まで「山手通り(環状六号線)-環七間」「環七ー環八間」「環八外側」という課題で東京南部から西部にかけて不動産を見てきました。(「環七ー環八間」については「世田谷線をゆく」で簡単に述べただけですが。)

東京という地域をどのように分析したらよいかという点について、環状方向に走る道路と都心部から周辺地域に伸びる鉄道のマトリックスで分析するのが良いのではないかと思い書いてきました。(「世田谷線をゆく」の後から意識しました。)そこで今回、このマトリックスに合わせて公示価格を集計して、どのマトリックスごとにどのような⓵価格(単価)、②容積率、③面積なのかを調べてみました。「容積率」とは敷地面積(土地の面積)に対して認められる建物の延べ床面積(全フロアの床面積の合計)を言います。
土地価格については住宅地の令和2年「公示価格」を使用しました。公示価格とは、全国の都市にある標準地(毎年価格を調査する土地、全国に3万程度ある)の1月1日の価格を不動産鑑定士が鑑定士土地鑑定委員会が審査決定した価格です。公示価格は、住宅地の他に商業地や工業地等があります。
当所の私の予測としては、都心部に近いほど土地価格及び容積率は高く土地の面積は狭いと考えましたが、結果はどうだったでしょうか?

環状線と主な鉄道の土地価格マトリックス

 

結果としては…

土地価格の単価(円/㎡)は予測と合致し都心部に近いほど高くなります。ただし気になる点が1つあります。東横線ー田園都市線間では都心部から郊外にかけてほとんど土地価格が変わりません。容積率で除してみれば土地価格は明らかに上昇します。これについては後で述べます。
容積率も「京浜東北線ー東横線①⓶③」と「西武新宿線ー西武池袋線⑲⑳㉑」で一部逆転がありましたが、概ね予測と合致し都心部の方が容積率は大きい傾向にあります。

「京浜東北線ー東横線①⓶③」については、環七ー環八間の容積率が環八外側の容積率より低く出ていることに特徴があります。「京浜東北線ー東横線⓶(環七ー環八間)」には大田区の誇る3つの高級住宅街「田園調布」「久が原」「山王」のうち、「久が原」「山王」があります。「久が原」は池上線・久が原駅の東側に位置し、画地が広く整然とした住宅街です。「山王」はJR京浜東北線・大森駅の北側に位置し、日本では最も古い高級住宅街といわれています。大森駅の近くにありながら高台となり、以前は山王から海岸を一望できたちにありました。街の中心部にはテニスコートがあり、かつての様子を今も偲ばせます。現在でも邸宅を見ることができますが、道路の幅員は狭いところが多く、高低差が激しいため高級住宅街としてはやや時代に見合わなくなったイメージを私は抱いています。ただ大森駅からの資金性は素晴らしいと思います。

また「西武新宿線ー西武池袋線⑲⑳㉑」については「山手通りー環七間⑲」の容積率が「環七ー環八間」の容積率より低く出ています。この点については、申し訳ありませんが、現在答えがありません。西武池袋線の北側には前回「人気の代々木上原もここ!」で紹介した西武池袋線「椎名町」「東長崎」「江古田」、有楽町線「要町」「仙川「小竹向原」があるので理解できるのですが…「西武新宿線ー西武池袋線⑲」はノー・ケアでした。そういえば、ここには「トキワ荘」跡地があります。今後、調査してみます。

土地の面積については、予測に反して統計的な傾向は示されませんでした。これは住宅地の標準地(公示価格を示している土地)の中には、大型のマンションの敷地なども含まれるためではないかと予想します。例えば三軒茶屋の標準地の面積には1,698㎡の土地が含まれていますが、このような規模の土地が一つあるだけでも土地の面積の平均値は大幅に上昇してしまいます。ほかの指標で調べる必要がありそうです。

南北で比較くすると、概ね南側が北側と比較して価格が高いことがわかります。南では東横線―田園調布間が特に高く、東武東上線ー埼京線の価格の150%以上となっています。このため西武新宿線より北側では山手通りー環七間でも低層住宅街が多く見受けられます。西武新宿線~埼京線の山手通りー環七間の価格は、小田急線沿線では祖師ヶ谷大蔵ー喜多見間(成城を除く)、京王線では千歳烏山―つつじヶ丘間等の環八の外側の水準、中央線では高円寺ー荻窪等の環七ー環八間の水準であり、低層住宅を希望するファミリー層にとっては合理的な地域となっています。

柿の木坂、八雲、深沢、等々力、自由が丘

さて、東横線ー田園都市線間ではいずれの土地価格も高額で都心部から郊外にかけてほとんど土地価格が変わっていません。この地域は地図で見ると、北東(山手通の外側)に青葉台、南東に田園調布、南西に二子玉川があり高級住宅街で囲まれた地域となっています。それでは、この地域の具体的な町名はどのようなものでしょうか?

山手通りー環七間(東横線「中目黒」「祐天寺」と田園都市線「池尻大橋」「三軒茶屋」の間)

(目黒区)東山、上目黒、五本木、碑文谷鷹番

(世田谷区)下馬、三軒茶屋太子堂、野沢

環七ー環八間(東横線「都立大学前」「自由が丘」と田園都市線「駒沢大学」「桜新町」「用賀」の間)

(目黒区)東が丘、柿の木坂八雲自由が丘

(世田谷区)深沢等々力奥沢駒沢、桜新町、用賀

環八の外側(東横線「田園調布」「多摩川」と田園都市線「二子玉川」の間)

(大田区)田園調布

(世田谷区)瀬田玉川(二子玉川)、上野毛、野毛、尾山台、玉堤

 

山手通りー環七間については、田園都市線―小田急線、小田急線―京王線、京王線ー中央線と比較して、特に高額な水準にはありません。有名な町名としては「三軒茶屋」「池尻」「碑文谷」等がありますが、比較的画地の普通程度の古くからの住宅街の面持ちがあり地味な地域となっています。決して悪い土地柄ではないのですが、高級住宅街と呼ばれる地域ではありません。むしろこの範囲では東京大学駒場キャンパスのある「駒場」や「代々木上原」を擁する田園都市線ー小田急線間、小田急線―京王線の方が水準が高いといえます。

ここで特筆すべきは環七ー環八間でしょう。この地域、「世田谷線を行く」で述べた地域の隣です。世田谷線は「下高井戸」から「世田谷」まで南下してから、三軒茶屋に向かって東進してしまいますが、そのまま南下すればこの地域となります。この地域の地価は60万後半円/㎡~80万円/㎡が標準となります。これは田園都市線ー小田急線、小田急線―京王線が50万台円/㎡~60万台円/㎡、京王線ー中央線が40万台円/㎡~60万台円/㎡と比較しかなり高い水準となっています。この背景にあるのは、この地域が他の地域と比較し、住環境に優れているためと考えます。

駒沢公園

呑川(桜新町付近)

 

まず、都立大学から「八雲」「柿の木坂」等は高台となっており、地域の中心には「駒沢公園」があます。また「呑川」が桜新町駅付近から「深沢」「八雲」を通り都立大学に流れています。(深沢の途中で暗渠化し緑道となっている。)このように高台に呑川が流れ大きな公園もあることからこの地域は住環境に非常に優れた地域となっています。「八雲」を歩いてみればわかりますが、土地の面積が広く道路も幅員6m以上の道路が縦横規則正しく走っており建物も見事な仕上げの住宅が並んでいます。公示価格も単価で800,000円/㎡を超えるものが多くあります。「八雲」「柿の木坂」は田園調布に準じる高級住宅街です。

八雲の住宅街

パーシモンホール

 

また都立大学から柿の木坂方面に上がってゆくと、目黒区の施設「パーシモンホール」があります。このホールは東京都立の名門中高一貫校「桜修館」に隣接し緑に囲まれた美しい建物で目黒区の文化の中核を担っています。(因みにパーシモンは柿の木坂の「柿」ですが、住居表示は東京都目黒区八雲1-1-1と「八雲」になります。)

さらに深沢から多摩川へ向かうと「等々力」「中町」があります。谷沢川の流域である「等々力渓谷」は多摩川に注がれていますが、東京23区で唯一の渓谷として有名です。周囲は閑静な住宅街となっています。このあたりは東横線・田園都市線とも駅距離があり駅距離の面で利便性に劣る場所もあるため最も土地単価が低い水準にあると思われますが、それでも土地単価は60万円/㎡を下りません。住環境の良さに加え、土地の面積が大きいことなどが等々力ブランドを支えているのでしょうか。

さらに、この地域の南東部には「自由が丘」「奥沢」があります。目黒通りより自由が丘寄りは土地単価も70万円台/㎡から100万円/㎡超となります。商業繁華性が高い地域であることに加え、自由が丘の一部には田園調布並みの敷地規模を有する邸宅も多くあります。また奥沢の中でもについても自由が丘駅のやや西側の九品仏の辺りも土地区画が広くしっかりした住宅街になっています。

以上のようにこの地域は環七ー環八間の中でも特に住環境が良く、地域としてのブランドが確立されています。

環八の外側については、地図で見ると環八と多摩川とが接近しているため大変狭いエリアとなります。しかしその狭い中に、「田園調布」「玉川(俗称:二子玉川)」があります。また、玉川の北側、環八付近の「瀬田」も二子玉川の一部を形成しますが、ここも緑豊かな居住性の高さ、二子玉川への至近性、玉川より標高が高いことなど、住宅街として恵まれた地域となっています。このような理由から、土地単価が高い水準になって当然といえるでしょう。

以上のように、東急線と田園都市線の間の地域は大変に居住性、利便性が高い地域となっており、これが他の路線よりも高く、また都心部と郊外との間に価格格差が生じない理由となっていると考えます。

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