一都三県におけるコロナの影響

コロナの不動産に対する影響とは?

前回、コロナによる東京の不動産市場の影響を考えました。ここでもう一度、コロナがどのように不動産市場に影響を与えるかを「長期的な視点」から考えてみましょう。コロナが経済に与える影響を通しての不動産価格や賃料への影響やコロナ期間中の短期的な店舗需要への影響は考慮しないものとします。不動産に対する需要の変化を考えます。

コロナの不動産市場への影響でのキーワードは「テレワーク」です。具体的には「テレワーク」の急激な拡大・定着により、オフィスで働いていた人事・総務・経営企画・システム等に係る社員が自宅で勤務することが中心になることにより不動産市場が変化することです。そして次のような変化が想定されます。

  1. オフィス需要の激減・・・東京都心部(千代田区、中央区、港区とその周辺)にあるオフィスで働く人数が急速に減少しています。テレワークにより1フロア数十坪のオフィスに人が2-3人しかいないという状況が生じています。コロナ感染防止のためオフィスの1人当たりの面積は必要となりますが、それをはるかに上回る人数の減少によりオフィス面積を大幅に縮小し、場合によってはオフィスを撤退し「リージャス」のような広域に多数のオフィスをレンタルするサービスに移行する可能性があります。東京都心部におけるオフィスの賃料は高額であり一度縮小または撤退した場合コスト体系が変化しますので、この傾向が始まれば後戻りを予測することは困難と考えます。
  2. テレワーク社員のオフィス勤務からの解放と居住地域の変化・・・テレワーク社員のオフィスワークは「1週間に1度」とか場合によっては「全くなし」というケースもあります。1週間に1度程度であれば、通勤時間が1時間半~2時間であろう苦になりませんから、テレワーク社員の居住地域は一挙に広がります。またオフィスワークが全くない場合は日本全国、又はインターネットにつながる世界のどこでも居住できることになります。今回、一都三県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に絞っていますが、不動産市場への影響はもっと広い範囲で考える必要性もあります。)
  3. 商業繁華性の変化に伴う店舗需要地域の変化・・・1・2はテレワークによる直接の変化です。しかしこの変化に伴い、従来の高度商業地域(大手町や虎ノ門等のオフィスの集積した地域や銀座等の商業施設の集積した地域)の需要が低下し、東京周辺部にテレワーク社員が移行することによる人口増加地域の需要が高まる結果とし、店舗(飲食店舗、物販店舗)に対する需要の強い地域が変化する可能性が大きいと予測します。

一都三県における人口分布、公示価格の現況

事業所の密度(2001年、e-stat)

地価公示(令和2年、住宅地、㎡単価)

ページのトップの図は一都三県の人口分布を示し、上図は事業所の密度(2001年)と地価公示(令和2年、住宅地、㎡単価)を示しています。事業所の密度はやや古いですが、総務省の統計によるものです。各都県の中心となるエリアの事業所しか含まれないため、白い部分に事業所が存在しないわけではありません。地価公示の住宅地は「住宅」と「共同住宅」を抽出していますが、「共同住宅」には店舗や事務所と兼用のものを含んでいます。 

事業所の密度から「東京」の事業所密度が「神奈川」「埼玉」「千葉」に比べて高い水準にあることが判ります。そして東京から横浜にかけての「京浜(東京―横浜)」が埼玉方面、千葉方方面より密度が高い状態が継続していることが判ります。京浜の事業所密度が高い理由は、①江戸時代以前の日本の都で日本第二の繁華性を誇る関西方面へのルートである東海道上に位置していること、②荒川が東京北部から東部に流れているため北部にある埼玉、東部にある千葉では繁華性ややや途切れること等ではないかと、現時点で私は考えています。

そしてこの事業所の密度に沿った形で一都三県の人口が分布しています。人口は東京都心部を中心に、各鉄道に沿って地方に広がります。人口がこのように分布する理由は、住宅地の広がりは「都心への通勤可能な地域の範囲」が重視されるためです。さらに地価公示の傾向も人口分布にほぼ合致し、東京都心部の地価が最も高く、鉄道沿いに地方に広がるほど地価は低下します。コロナ前まではこの傾向に拍車がかかり、東京都心部に近ければ近いほど地価は激しく上昇し、都心部から離れた地域の地価はあまり上昇しない傾向にありました。

コロナ後の都心部の在り方と重視される地域の要件

コロナ後の不動産市場では、「東京都心部の在り方」「重視される地域」が変化すると思われます。

まず、「東京都心部の在り方」ですが、現在のオフィス街を中心とした用途がオフィス・住宅混合用途となってゆくと思われます。コロナ前においても東京都心部は高い容積率のためオフィスと住宅の収益性が変わらない場合、高層マンションを建築することが多く住宅化が進んできました。(前回参照)コロナ後においてはオフィスの収益性が急速に低下する可能性があるため、オフィス街がオフィス・住宅混合用途に変わってゆくと思われます。既存の老朽化したオフィスビルはマンションに建替えられ、新しく大きなオフィスビルも用途変更を行いその一部をマンションとするケースも生じる可能性があると思います。

次にコロナ後に「重視される地域」についての要素は次のようになると考えます。

  1. 商業地域に住宅地域が近接し住環境に恵まれ利便性の高い地域。
  2. 近接する商業地域が鉄道の主要となる駅を含んでいること。
  3. 東京都心からやや離れているため、コロナ前の土地価格が比較的低廉な地域。

簡単に言えば、主要な鉄道の駅が商業地域にあり、東京都心から離れているため、まだ地価の安い地域が重視されるということです。しかしコロナ前には無名の地域が突然コロナで着目されるケースは少なく、コロナ前は都心部と比較して比較的割安であった地域でなければ重視される地域にはならないと考えます。またコロナの影響で通勤が減少した場合、鉄道各社の収益も悪化の可能性があるのでマイナーな鉄道は廃線のリスクがあると思われます。従って鉄道は主要な鉄道と考える必要があると思います。

私見ではありますが、現在のテレワークのように子供たちの声が聞こえ背景には生活感が広がる自宅でのテレワークの姿は変わってゆくと思います。例えば「リージャス」のように各地域に分散してオフィススペースを賃貸しているオフィススペースを利用したり、マンションにテレワークで利用できるオフィス部分が併設されたりということが進むのではないでしょうか。また大企業など資金力のある企業では主要都市でのワークスペースを拡張して、「本社ー主要都市のワークスペースー(自宅)」という多層的な勤務体制を構築する場合もあると思います。

このように考えると、一都三県においては、一義的には本社に次ぐオフィスが各県の中核都市(横浜、大宮・浦和、千葉)の繁華街に設置され、さらに自宅に近い鉄道の駅がある商業地域に日常的なオフィスが設置されると考えるのが自然と思われます。

コロナ後に重視される地域


上図は一都三県における主要な鉄道の駅のある、比較的大きな商業地域を示しています。これらの都市について私は十分な知識はありませんので、都市に関する考察からコロナ後に重視される地域と判断したものではありません。私の書いた条件を基に地図上でピックアップしたものとお考え下さい。

この中で「立川」については一層発展し東京西部の副都心となるのではないかと考えます。中央線、南武線、青梅線、多摩都市モノレール線が交わる要衝の地であり、商業地域も大きいからです。立川にオフィスを構えれば東京西部の各地から人が集まりやすく、このような場所こそコロナ後に重視される地域となるのではないかと思います。

神奈川県については「横浜市」「川崎市」「相模原市」の3市が政令指定都市となっています。政令指定都市とは法定人口が50万人以上を擁する市のうち政令で指定された都市で一般市よりも都道府県より多くの権限が委譲されおり、全国で20市しかありません。従ってこの3市はコロナ後に重視される地域として適切ではないかと考えます。また「センター北」については横浜市営地下鉄ブルーラインとグリーンラインの駅しかなく主要な鉄道の駅ではありません。しかし港北ニュータウンの北部に位置し横浜市における主要な生活拠点として指定されていること、また商業地域の面積が広いことから外すことはできませんでした。

埼玉県、千葉県については「さいたま市(大宮・浦和)」「千葉市」は政令指定都市に指定されています。また上記地図では「熊谷」が入っていませんが、埼玉県北部を代表する都市としてコロナ後に重視される地域の対象となる可能性があります。両県については私の知見も少ないのであまりコメントできません。

今回は一都三県におけるコロナの不動産市場に対する影響を考えましたが、実際には日本全体を巻き込んだ動きとなることが予測されます。またコロナ後の不動産市場は実際にどのように変化するのか、今後、動きが出てくると思います。その折に触れて、私自身の考えをまとめてゆきたいと思います。

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