東京の河川(3)東京の「調節池」がすごい!
河川の氾濫と雨量の増加
東京の河川(1)(2)で述べたように河川により良好な住環境が形成されることが多くあります。反面、河川のある低い土地では河川の氾濫は周辺に浸水被害をもたらします。東京の河川の氾濫は平成でも続いていました。近年の河川の氾濫には次のようなものがあります。(詳細は東京都建設局「過去の水害記録~浸水実績図」をご参照ください。)
- 神田川(善福寺川・妙正寺川を含む)・・・平成17年9月4日、時間最大100mm以上の集中豪雨が発生し、浸水家屋3,588戸(床上1,582戸、床下2,006戸)の甚大な被害が発生しました。善福寺川及び妙正寺川沿い(中野区・杉並区)で浸水面積は84haに及んでいます。
- 石神井川・・・平成22年7月5日、王子駅付近、溝田橋下流部で練馬・板橋付近で時間最大100㎜以上の豪雨となり石神井川が氾濫しました。この氾濫により床上・床下浸水被害が450世帯に生じています。
- 渋谷川(古川)・・・平成16年10月9日、台風22号により東京メトロ南北線・麻布十番駅地下ホームが冠水する等の被害がありました。渋谷川(古川)では古川橋と麻布十番で大きく蛇行するためこの区間で洪水が発生していました。
- 目黒川・・・平成元年8月1日、時間最大雨量62㎜の雷雨により上目黒、下目黒付近で63haが浸水し床下247戸、床上582戸に被害が生じました。
また気象庁のホームページからは「大雨が増えている」ことが明記され、「日降水量100mm以上および200mm以上の日数は106年間で有意な増加傾向があります。最近30年間(1977~2006年)と20世紀初頭の30年間(1901~1930年)を比較すると100mm以上日数は約1.2倍、200mm以上日数は約1.4倍の出現頻度となっています。こうした長期的な大雨日数の増加に、地球温暖化が関係している可能性があります。」とあります。(気象庁ホームページより)このため河川の氾濫によるリスクは高まっているといえるでしょう。
東京都の河川の整備
このように雨量増加傾向の中、東京の中小河川の整備について東京都建設局が中心となって整備を進めており、浸水被害についてみてみると次のように整備の結果を出していることが判ります。(上記の東京都建設局「過去の水害記録~浸水実績図」の平成1年から平成27年までの浸水面積(ha)と床上・床下浸水の合計件数の合計値を表としたものです。点線は近似曲線(傾向を表現したもの)です。)図のように平成前半まで床上・床下浸水は1000件を上回ることも珍しくありませんでしたが、後半に入ると平成25年を除き1000件以下となっています。それでは東京ではどのように河川の整備を進めているのでしょうか。
従来、東京都では1時間当たり50ミリの降雨により生じる洪水に対して安全を確保することを目標として中小河川の整備を進めてきました。しかし上記のように地球温暖化に従い雨量が増加する中、年超過確率1/20のレベルに相当する水準として、区部の台地を流れる河川は時間75ミリ、野川など多摩部を流れる河川は時間65ミリに目標水準を引き上げています。(年超過確率とは、雨量データを統計的に解析した「計画雨量」を超過する確率を降雨記録に基づいて求めた確率です。)
そして時間50ミリまでは河道整備(川幅を広げ、川の深さを下げる等)を基本とし、それに「調節池」などを組み合わせて、地域の状況に応じた効果的な対策を実施しています。そして「調節池」が各河川に多く存在し、従来なら洪水が発生などをするような場合でも洪水を防止しています。調節池は台風や集中豪雨の時に川が氾濫しないように一時的に雨水を貯留する池で従来は堀込式という表面に現れ池の形のものが多かったのですが、近年の都心部では地下に貯留する調節池が増えています。地下の調整池はなかなか目にする機会もありません。次の写真は善福寺川取水施設にあった看板です。このように表面に取水施設等の一部が地上にあり貯留をする部分は地下にあるケースが増えています。詳細については各調節池にリンクを張っておきます。上記の地図に基づき各調節池を見ていきましょう。
神田川・環状七号線地下調節池と3河川の個別の調節池(神田川・善福寺川・妙正寺川)
「神田川・環状七号線地下調節池」は神田川、善福寺川、妙正寺川の水害に対応するため、環状七号線の道路下に延長4.5km、内径12.5mのトンネルを建設し平成20年3月に全施設が完成したものです。三つの河川それぞれに大規模な取水施設を設け、54万㎥もの貯留が可能になっています。神田川取水施設と善福寺川取水施設は東京メトロ丸の内線・方南町駅の付近、神田川と善福寺川が合流するやや上流にあります(神田川取水施設が方南町駅の南側、善福寺取水施設が北側)。妙正寺川取水施設は西武新宿線・野方駅のやや南側にあります。
三つの河川は個別の調節池もあります。
妙正寺川については神田川との合流地点付近で古くから氾濫することが多く、「妙正寺川第1調節池(昭和61年完成、貯留量3万㎥)」「妙正寺川第2調節池(詳細不明)」「妙正寺川落合調節池(平成7年完成、貯留量5万㎥)」「上高田調節池(平成9年完成、貯留量16万㎥)」「鷺宮調節池(平成25年完成、貯留量3.5万㎥)」と多くの調節池が作られ、その貯留量は30万㎥にもなります。
善福寺川については環七のやや上流に「和田堀公園調節池(現在2つの調節池を統合中、完成後貯留量1.75万㎥)」があります。神田川については「下高井戸調節池(工事中、貯留量3万㎥)」を進めています。
白子川地下調節池・城北中央公園調節池・4つの掘込式調節池(石神井川)
石神井川は昭和の時代から「堀込式」といわれる手法で4つの調節池が作られてきました。「堀込式」といわれる工法では調節池は地上にあり洪水は越流堤を超えて調節池へ流入し、川の水位が低下すると排水ゲートから自然排水される仕組みとなっています。「富士見調節池」は武蔵関公園内の池であり昭和47年完成(平成20年拡張)、貯留量3.38㎥)です。もともと湧水による池が調節池としても用いられるようになりました。「南町調節池(昭和55年完成、貯留量1.2万㎥)」「芝久保調節池(昭和56年完成、貯留量1.1万㎥)」「向台調節池(昭和58年完成、貯留量8.1万㎥)」は石神井川の上流、西東京市にあります。
「白子川地下調節池」は「石神井川」と大泉を源流とし荒川支流の新河岸川にそそぐ「白子川」の水害に対応する調節池であり、目白通りの下約35mの地下を3.2kmにわたって走っています。平成29年に完成し、内径は10m、貯留量は21.2万㎥となっています。このように白子川地下調節池は、異なる流域間で活用する調節池となっています。
「城北中央公園調節池(工事中、令和6年末までの第1期事業で貯留量25万㎥)」を上板橋の南方にある東京都立城北中央公園で進行しています。
野川第一・第二調節池・野川大沢調節池(野川)
野川には野川公園と西武多摩川線を挟んで西側にある武蔵野公園北側に「野川第一調節池」「野川第二調節池」があります。比較的古い調節池で第一が昭和58年、第二が平成1年に完成しています。(貯留量は第一が2.1万㎥、第二は不明です。)共に「堀込式」といわれる工法で野川の水位が上昇した際には、洪水は越流堤を超えて調節池へ流入します。このため、都心部の新しい調節池とは異なり豊かな自然を感じさせます。野川ではさらに調布飛行場と国立天文台の間に「野川大沢調節池(貯留量7.4万㎥)」を工事中です。
古川地下調節池・渋谷駅東口地下広場雨水貯留槽(渋谷川・古川)
「古川地下調節池」は恵比寿のやや東側の天現寺橋付近から麻布十番に至る3.3kmを古川の直下、約30~40m下を内径7.5mの管が走っています。貯留量は13.5万㎥で取水施設が首都高速2号目黒線の天現寺料金所の南側にあり、排水施設が麻布十番付近にあります。古河はこの区間、大きく蛇行しているため氾濫することが多かった地域です。
渋谷は名前の通り標高が低く(15m程度)、洪水となりやすい地域です。渋谷の再開発に伴い、東急電鉄が渋谷川の暗渠化された上流部分に隣接する形で渋谷駅東口地下広場に雨水貯留槽を建設しました。ここには4000㎥の貯留が可能です。渋谷の洪水へのリスクも低減されています。
目黒川荏原調節池・目黒川舟入場調節池(目黒川)
「目黒川荏原調節池(平成14年完成、貯留量20万㎥)は五反田の西側近辺に位置しています。地下 4 層構造で、上層が満杯になると下層へ流入する仕組みとなっています。
「目黒川舟入場調節池(平成6年完成、貯留量5.5万㎥)は中目黒駅付近に舟入場親水公園の一角して建設されたものです。目黒川も氾濫することが多かった川ですが、この建設により氾濫は減少したと思われます。