経営者に不動産投資をお勧めする理由

私は印刷会社の経営を引き継ぎ、M&Aを経験していますが、この前に不動産を所有していたからこそM&Aを実行できたと思っています。この経験から経営者の方にとって不動産投資をお勧めします。

不動産経営は、「収益性」と「資産圧縮」が課題となります。収益性の面からみると、賃貸して得た収入から管理費や修繕費などの費用を控除した利益の他、不動産を購入した取得額と売却時の売却額との差額も考慮する必要があるので、不動産単独の収益性は低いと思います。しかし、本業が順調で余剰資金を利用して不動産を購入すれば、資産圧縮効果が大きくなります。つまり、本業の事業が好調であれば、不動産経営を行うことはメリットが大きくなります

そして、事業経営に付随して不動産経営を行う主眼は次の2つと考えると良いでしょう。

1.事業の出口戦略

事業経営は必ずしも順調にはいきません。経営者は事業が良い方向にに進めるよう努めても、事業への不安はいつも付きまといます。事業は時代の影響を受けるものですから、事業経営者はそれに備える必要があります。事業経営が行き詰まり「倒産」をすると、経営者は多くの財産を失い、将来の生活が脅かされます。これを回避するため、事業の出口戦略として不動産経営は非常に有効です。出口戦略は「M&A」と「廃業」の2つが考えられますが、不動産との関係では次のように考えることができます。

  1. M&A…この場合、事業を売却した収入がありますので、現存の不動産でいくらの収入が期待でき、さらに事業の売却益で不動産をさらに購入することができます。
  2. 廃業…この場合、廃業に伴う費用(従業員の解雇に係る費用、在庫処分費用 等)を考慮する必要があります。従って、現金等の資産で補えない場合、不動産の一部は売却をしてこれに充て、残りの不動産賃貸による収入で事業終了後の生活を支えることとなります。

以上のように、事業の出口戦略において、不動産経営を行うことによって、「事業終了時の費用」を調達し、「事業終了後の生活」の収入を確保することを目的とします。これによって、多額の損失を被り将来の生活を脅かす「倒産」を避けることができます。

2.相続対策

経営者の場合、相続で優先する順位は、①自社株式、②自己居住用不動産、③賃貸用不動産、④有価証券等、⑤現金の順番となることが多いと思います。そして不動産経営を行うことによるメリットは、資産の圧縮が可能となることです。資産の圧縮については、土地、建物について次のような効果が期待できます。

  1. 土地については、相続税評価額が公示価格の80%程度に設定されるため、20%程度の圧縮が期待できます。
  2. 建物については、固定資産税評価額と同額になります。まず、新築時に建築費の約70%程度で設定されます。次に経年と共に減価償却が生じ、減価償却分が期間利益から控除され節税が期待されるほか、減価償却により資産価値が低下することにより資産価値が減少します。

不動産について、相続においてデメリットもあります。それは有価証券等の金融資産に比べて不動産は流動性に劣り現金化が容易でないことです。相続税の申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月ですから遺言書等により分割方法等は指定する必要があります。そして不動産は通常、売りに出してから売却できるまで数カ月から1年以上かかる場合があります。その時の経済状況により価格自体が変動しますし、早期の売却を目指す場合は安値での取引を余儀なくされることも多くあります。このようなデメリットも考慮しておくべきでしょう。 

不動産経営に際して留意すべきこと

以上の2つの目的を達成するためにはどのような不動産経営を行うべきかという点で、留意すべきことを述べます。

  1. 手のかからない不動産を選ぶこと。
  2. 簡単に売却できる不動産を選ぶこと。

1.の手のかからない不動産とは、事業経営に打ち込んで不動産経営をあまり考えなくても大きな失敗をしない不動産、放っておいても長期的に安定的な収益を稼げる不動産を選択することです。2.の簡単に売却できる不動産とは、「廃業」するときに不動産がすぐ処分できないと廃業の時機を逸することなく、「相続」に際しても相続税の支払い時期までに売却できる不動産です。

1.対象とすべき「不動産」とは

以上に適った不動産はどのようなものでしょうか?ーーーここでは一棟の居住用の賃貸不動産(いわゆるアパート、賃貸マンション)をお勧めいたします。理由は次のような点からです。

  1. 居住用の賃貸不動産は景気の動向に左右されにくく、比較的、安定した経営が可能である。
  2. 賃貸仲介業者(エイブルやアパマンショップなど)も多く、空室の発生時には容易に募集もかけらる。
  3. 修繕や入退去の手続きも業界のルールがおおよそ決まっており、汎用性が高く、わかりやすい。
  4. 資金が必要となり売却する際も、場所さえよければ、中古物件の需要は高く出口戦略を立てやすい。(最悪「土地価格ー取壊し費用」で処分できる。)

賃貸物件としては、商業用不動産(賃し事務所ビルや貸し店舗ビル)や高層建物の一部(1フロアやマンションの1室)を所有して賃貸する場合(賃貸用区分所有建物)もありますが、次の理由で事業との兼業には不向きと考え、除外します。

(商業用不動産)

  1. 景気が良いときは賃料が上昇し利益が上がりやすいが、景気が悪くなると賃料が下落しやすく、不安定である。(事業が悪くなると、不動産収入も悪化しやすい。)
  2. 賃貸形式がスケルトン貸し(内装を顧客が負担して準備する)その他、汎用的でない場合が多く、頭を使わなければならない。
  3. 建替えや大規模修繕の場合、立退料や代替物件の確保など多額の資金を必要とする場合がある。

(賃貸用区分所有建物)

  • 老朽化した場合、他の区分所有者と意見が一致しなければ建物を建て替えることさえ困難で、その時には賃貸することも売却することも困難となり、最終処分が見通せない。(放っておくと、処分できなくなる。)

2.利回りとレバレッジ ~利回りの低い不動産が良い不動産! レバレッジは必要以上に効かせないこと!

  • 利回り」とは、1年間の純収益(賃料収入-費用)を不動産の価格で除したものです。例えば、年間の賃料収入が700万円、管理費や修繕費が200万円、不動産(土地と建物)の価格が1億円 (= 10,000万円)の場合、利回りは次の通り5.0%となります。

( 700万 - 200万 ) ÷10,000万 = 5.0%

しかし、一般に不動産売買で表示される利回りは満室想定の表面利回り(賃料収入 ÷ 不動産の価格)の場合がほとんどです。すなわち、空室がたくさんあっても満室想定ですから、実際の利回りは高く表示され、不動産に詳しくない方はこのような情報に踊らされがちです。ここで、一つ理解していただきたいことがあります。常に満室で、誰もが欲しがる不動産は、誰も手放しません。従って、価格が上昇し、利回りは低くなるのです。良い不動産とは利回りの低い不動産をいいます 

  • レバレッジ(てこの作用)」とは、少額の資金を頭金として残額を融資で補い不動産を取得することで、より大きな不動産収入を得ることを言います。

(例)1億円( = 10,000万円)の手持資金があったとします。不動産は5つの物件があり、どの物件も1億円、年間5%の収益が上がるとします。利息は2%と考えます。この条件で①手持資金のみで1物件を取得した場合の収益と②手持資金1億円と融資4億円( = 40,000万円)を受け5億円( = 50,000万円)の物件の取得をした場合の収入は次の通り計算できます。

①10,,000万×5%=500万円(収入/年)

②50,000万円×5%=2,500万円(粗利から次の利息を控除します。)

 40,000万円×2%=800万円(利息)

 2,500万円-800万円=1,700万円(収入/年)

このようにレバレッジを効かせれば、一般に不動産収入は増加します。もし不動産賃貸業のみを事業とするのならこの手法を取る必要があるでしょう。しかし、事業経営を主とする場合、不動産は価格変動も激しく不動産価格が下落した場合は債務超過に陥ることもあるため、安全性を重視する必要があります。不動産購入時の借り入れは最大60%、残り40%以上は自己資金から拠出するようにするのがおすすめです。私は不動産の暴落時で不動産価格は30%~40%下落するとみています。このような際でも自己資金の全額を損切りすれば、事業への影響を抑えることができます。不動産収入は事業収入を補うためのものですから、いざという時でも事業へ悪影響の出ない範囲で行うべきと私は考えます。 

このような不動産を探しましょう! ~「立地が良く、質の良い建物」~

経営者が探すべき不動産は、一棟の居住用の賃貸不動産(いわゆるアパート、賃貸マンション)で、利回りよりも不動産として魅力があるものに着目すると良いと思います。次のような条件を備えた不動産を探してみましょう。

  1. 街並みが整った地域にある不動産。(わかりやすい街並みの、わかりやすい場所にある不動産。碁盤の目状が理想的。)
  2. マンションや戸建て住宅が多く、工場や高圧電線等、嫌悪施設のない地域にある不動産。
  3. 利便性の高い商業地域(賑わいのあるスーパーや商店街がある等)の近辺にある不動産。
  4. 津波、河川の氾濫、土砂災害などの想定されていない安全な地域にある不動産。
  5. 駅距離が7分(560m)以内にある不動産。
  6. 前面道路が幅員6m以上で車通りの少ないの不動産。
  7. 土地面積が広い不動産。
  8. 新しめの建物。(10年程度目安)
  9. 間取りや設備が時代にあって汎用性がある建物。
  10. 法律上の問題のない建物。
  11. 長い間大切にしたい不動産。